地獄編〜10  余計なことしやがって!もうチョイで死ねたのに!

 医者に成りたて 元気一杯。当直アルバイト病院で。
 冬 午前四時救急車。
46歳 男 行き倒れ 道路に寝っ転がってた。全身冷え切って 動かず意識不明。さぁ大変。看護婦・受付のおじさん・付添婦・・・手の空いてる者総動員。脈は触れにくく血圧は不明。しかし心音は聴こえる。生きている。木の桶風呂で湯を沸かし全身を温め 静脈切開して点滴注射 酸素吸入・・・。六時には意識はあるが ウトウト状態。治療は継続指示。 七時半に大学病院へ向かった。
 翌々日夕刻 また同病院へ当直アルバイト。すぐ「行き倒れ男」の部屋へ。
 会うや忽ち開口一番。
「お前か!余計な事しやがってっ!もうちょいで死ねたのにっ!この野郎!」
吃驚したの何のって 本当に驚いた。すぐさま部屋を出た。どんな事情か一切聞かなかった。・・・人生ほんとにイロイロだった訳。若い医者は その後しばらく困惑しきりだった。
 この後この医者 首つり失敗10数例経験。 ブロバリン睡眠薬飲んでの自殺未遂者は多すぎて ほとんど覚えていない。
一人だけ 沖縄の男がブロバリンで死んだ。19歳だった。