地獄編〜20  この男 生まれは旅順・表六・変人・奇人①

 旧・満州国・旅順生まれ 新京特別市(現・長春)育ち。関東軍司令部を中心に新市街は見事な近代都市。近隣に満人はスチーム暖房のボイラー・一家族のみ。東本願寺幼稚園。これが大嫌い。かけっこ。むすんでひらいて てをうって・・・どうしてこんなつまらんことを・・・しょっちゅう休む。それに弁当。 いつもいつも嫌いなオカズ!名にし負う偏食。好きなものが殆ど無い。母の戦略だ。こちらも負けない。天気のいい日は 玉砂利の中にみんな隠した。餓鬼の悪智慧油断出来ない。恐ろしい。天気が悪けりゃ幼稚園に行きゃしない。不思議だった。あの喧しい母が決して文句言わなかった。配給制度になったらサカナを食べ出した。馬鹿かっ!と笑われた。
 父は百姓の六男。中学二年 数学の教師変わった途端に数学嫌い。勉強嫌いになった。大酒のみだが酩酊しない。弓道 ・剣道段持ち・テニス・野球好き。野球はプロの浜崎監督チームともプレイしてる。官吏になった。子供の教育に一切口を出せなかった。母の領分だった。
 母は夭逝。祖母は「神風連の乱」生き残り 当時二歳。母は恐かった。半端じゃない 滅茶苦茶こわかった。すぐに短刀持ち出し「腹を切れ」っ!。国民学校行くのは厭で厭で辛かった。勉強嫌いの怠け者 長男の表六。教師は全員大嫌い。女学校からの非常勤講師・習字の先生だけ大好きだった。
 気に食わない 面白くないと 理屈をつけて家へ逃げ帰る。学業テスト成績だけは良い。級長任せるわけがない。
五年生!剣道・教練が始まる。本気でどうしようか悩んだ。こわかった。毎朝全員起立 教育勅語の斉唱。あれ程厭な事も無かった。突如いきなり指名され お前っ!後を続けろっ!一人でっ!あんな恐ろしい事は無かった。いつ当たるか 明日は大丈夫か?・・・どれだけやきもきしたか・・・。何がなんだか解らん あんなものを暗記する とてもじゃないが耐えられない。幸運だった 一度も災難に遭わずに過ぎた。それにもうひとつ。毎日のように二言目には「内地の奴らに負けるな!頑張れ!」。この「内地」ってなんだ?その意味がとんと判らない。いつもこんな調子で 本物のヒョウロクだった。八月 夏休みに入りホッとした。
 この後 とんでもない事になろうとは・・・。
 晴天の霹靂。或る日午前十時疎開命令・午後一時までに新京駅に集合せよ。さあっ大変。両親大喧嘩。父は役人・コチコチ石頭。母は女性 自由自在・豊かな発想力。命令なんか無視。なんとかなる・・・。父の殺し文句 「わしゃ知らん。責任持たん!」。母が折れた。結果的には家族にとって大誤算となった。悲劇の始まり・・・とあいなった。
 こんな時 女性特有の直感力を無視したら必ず負ける。それ程女性の直感は当たるし強い。男は駄目だ。わけの判らん柵に縛られ過ぎている。逆に言えば 例えば男の浮気に気ずかない女は マヌケ・ウスノロに決まってる。鈍感女性に救いは無い。