地獄編〜27  この男初めて船に乗る・表六・変人・奇人⑧

 どんな手順でどのように大隅丸?3000トン?に乗り込んだか 記憶が曖昧。気絶後の母の経過も忘却。テント内での元気な姿は覚えている。
船底に銘々横になっている。この男マヌケで「船酔い」と言う言葉も知らなかった。
 吃驚した。ゲーゲー・ゲロゲロ周りが吐くわ吐くわ・・・部屋中凄まじい異臭・悪臭。ヒョウロクは船酔い知らずでケロリとしてる。やっぱり何処かマヌケ?!
ひとり何でもなかった。母から聞いていた 「玄界灘は凄まじく荒れる」。今思いだす。やっぱり臭かった。その臭さと言ったら「胃洗浄」の悪臭なんて物の比ではなかった。
耐えられない。確か禁止されていた筈。「船室外へ出るべからず」。この男怖さ知らず。何も告げずこっそり 手摺りに掴まりながら狭い階段を上へ上へ上がり遂に外に出た。
真っ暗だった。が 間もなく目が慣れて来た。空はお星様で一杯。船は揺れる。このマヌケ そもそも船が揺れる事の恐ろしさをを知らなかった。あちこち掴まりながら太いマストの「真下」に座った。上をみた。マストが左右に大きく動く。その度に左から 次いで 右から海水が飛び込んでくる。甲板を洗う。尻が浮き上がる。慌てて近くの太いロープーにしがみつき ここに居ては「いけないかも知れない」。万事この調子なのだ。素足が甲板に張り付く。おそる恐る船室に戻った。知らぬ顔のハンベイを決め込んだ。
 ここでも食べ物と便所が大問題!!
 ひとつは物凄く硬いカンパン。まるで歯がたたない。いつまでもしゃぶって ひたすら溶けるのを待った。材料はドングリ? 他は何を食べたか全然記憶にない。
 いつものように 便所が足りない。
なんて説明したらいいか・・・船の外側壁に角材で作られた隙間だらけの小さな個室?が取り付けられそこで排便。ウンコ様は自動的に海の中。用足し待ちの列は長く 顧みるに 屠殺場で眉間を打ち抜かれる順番待ちの牛の行列のようだった。
 博多までの乗船時間はまるで覚えていない。博多港外にまる二日間停泊した筈。この間何か予防注射?をされた。凄まじかったのが検便。
白衣を着た数人の顔の前に 尻を突き出す。ガラス棒が肛門内に突っ込まれる。それは直ぐ飽和食塩水の入った?試験管内に立てられた。この方法で回虫卵やギョウ虫卵などの有無を調べた筈である。これも女性には遣る瀬無かったに違いない!!
 全員「虫下し」を飲まされた。
 昔は 腹痛・・・と言えば「正露丸」と「虫下し」だった。
       今日は マドンナの誕生日。NOV 18 2010.