地獄編〜28  この男無情・非情を知る。表六・変人・奇人⑨

 小括・・・「生きるって難儀なことだ。厄介だ」。「口から入れて下へ出す」ただこれの繰り返し。たったこれだけなのに「苦しい」。
 「・・・故郷に着けば うれし涙と 変わるだろう」・・・変わらなかった! 我が母は!!
 ヒョウロクも母の言う「内地」が どうしてもピンと来なかった。判らなかった。助かったとも思わなかった。
 汽車に乗った。山陽道の駅で降りた。父も一緒・実家へ向かった。迎えは誰もいなかった。二里くらい?歩いた。稲掛け田園風景を初めて見た。
母屋の左右に離れと土蔵があった。離れに間借り。
 空は晴れあがり 長閑で 戦争の痕跡らしきものは一切見かけなかった。朝鮮から博多までの景色とはまるで違うものだった。
 朝は伝統的な芋粥。昼・夕食は記憶なし。
 突然の食事内容の変化にオナカが驚いた。一日六回正確に 水様性下痢が二週間続いた。腹痛は無い。足の浮腫みが消えた。伯父(父の長兄)に会った時「よう肥えてるなぁ」・・・栄養失調による低蛋白血症だった訳だ。
 ひと月位?経って村の小学校に転入手続き。既に一年以上学校とは無縁。母の決断。進級せず五年生から再スタート。
ここでトラブル・・・
 ① 信じられないほど排他的でよそ者として徹底的に排除された!  
 ② 方言を知らないと馬鹿にされた!
 ③ 何事につけ差別されっぱなし!
 ④ チマチマ・ケチケチしてて おおらかさがが全くない!
 ⑤ 引揚者・貧乏人扱いされた毎日!・・・これら全てこの地・土着民の小学生の言動だった。
 ⑥ 勉強ができない!
ヒョウロク激怒。冗談じゃないっ!!好き好んでこんな土田舎に来たんじゃないっ!馴染まない 馴染めない!何回登校したか?嫌で直ぐ帰宅した。
無意味だった。この通学路には大小種々の蛇がいてちょっと手を出すと飛びかかって来る。こいつら沢山ヒョウロクの犠牲になった。
 更に加えて 伯父家族・親戚一同の態度・・・
 ① 貧乏人 これを完全邪魔もの扱いする・馬鹿にする。親戚として恥なのだそうだ。
 ② 冷徹な長兄・・・お前らの歩いた後にはペンペン草も生えない!・・・ヒョウロク声を失った。お前ら満州で贅沢した罰当たりだ!
 ③ 新京で我が家に居候してた年長の従兄二人が 見舞いと称して屑の薩摩芋を持ってきた。彼らが帰った後 母が猛烈に怒りだした。
   とんでもないトバッチリが飛んできた。「人様には 良いものを差し上げること!反面教師として忘れるな!」
 ④ 亡母は毎月長兄に仕送りをしていた。
母の決断・実行は迅速だった。
 母の故郷。神風連の地・有明海沿岸の町へ動いた。十月中旬だった?筈。
これらを体験して以来・・・
この男・表六は「内地土着民」を「内地土人」と呼称し 略して「ドジン」と言い表している。
実はアメリカにはアメリカの チャイナにはチャイナの インド アフリカ オーストラリア マレーシア イギリス ギリシャ コロンビア チェチェン・・・それぞれ何処でも「ドジン」がのさばり出して居る事にヤキモキしている。