地獄編〜30  この男変身・ガンコ・変人・奇人(11)

 この家には母屋・土蔵・納屋はあったが離れは無かった。人の優しさは溢れんばかりにあった。救われた。助かった。ザボンの木もあった。
空腹感も無い。なぜか急に勉強し始めた。変身し始めた。勉強せよと母に言われたことはただの一度も無い。婆様は学校でのテストの成績が良いと大喜びする。近所中に言いふれまわる。おおいに自慢しまくる。この様はおかしかった おかしく見えた・・・が嬉しくもあった。
意地悪にも遭わなかった。逆になった。日本地理の本を貸してくれた友にも恵まれた。ヒョウロク・ガンコは二日半で全部ノートに書き写した。
教科書の内容については一切記憶なく 辞書・参考書なんて物がある事さえ知らなかった。
授業は午前のみ。帰宅すると干潮時には海へとんで行った。何時だったか急にムカついて大きな回虫を吐いた。母には黙っていた。
 12月21日早朝突如家がユサユサ大きく揺れた。地震を初めて知った。驚いた。「南海地震」だった。
 亡母が恐れたものは三つ・・・
   ① スルメ・・・食べて赤痢になった。
   ② 雷  ・・・有明の浜で雷にあたって死んだ人を見た。
   ③ 肺結核・・・結核家系。教師にはなるな。口癖みたいに言っていた。
 幸せな日々は半年と続かなかった。親戚達がこの家に次々引き揚げて来る。
 今度は隣町の 更に遠縁に当たる方々の援助・支援を受けることになる。