地獄編〜31  この男ノビノビ・ガンコ・変人・奇人(12)

 「かえり船」は船酔いと検便が・・・。ワタリガニと何故か真ん丸お月さまを見ると 即「有明の海」が目前に現れる。父は東京・単身赴任中。
三月末 隣の漁師町・町立小学校へ転入。家は国道に面し 親族の呉服屋に地続きの一軒家。この道路をはさんで左前方に映画館 その右隣は広い神社。その後方に大きな芝居小屋があった。月形龍之介一座が来たことがある。毎日午後五時きっかりに映画館のスピーカーが流行歌を大音量で流す。労せずしてイロイロな歌を覚えた。これも不思議の一つだが あれだけ口喧しく厳格極まりなかった母が 「不良の歌?」をむしろ積極的に唄う事を勧めた。親戚の子供たちも集めて「大人の歌?」を好き勝手に唄わせた。ただ「リンゴの歌」だけは物凄く忌み嫌った。「アタマの切り替え」がとても速く 「ガンコ」に対する言動も激変して行く。
 五月三日は ビックリ仰天の日となった。転校間もないガンコに突如学校を代表して 例の芝居小屋で「ナントカカントカ・・・」をやれとのお達し。ほんとに何が何だかサッパリ解らなかった。「シンケンポウガ・・・ドウノコウノ・・・」何度聞いても理解出来ない。納得いかないと俄かには「ハイ・ウン」とは言わない。「ガンコ・頑固」なのである。しかしなんと言っても「新入り」の弱み。「いいからこれを暗記して喋れっ!」。母を落とした。やむなし。一体これは日本語なのか・・・全く意味はわからず覚えた通りに壇上で話した。拍手されたが「ガンコ」はポカン・・・新憲法実施日のことだった。
 ここでも食べることには事欠かなかった。今度のガンコはやりたい放題・・・
 夕食のおかずが足りないっ!母の声。即 縦長の竹籠を持って浜へ一目散。少々潮が満ちて来てても平気の平左。籠一杯アサリをとって帰る。15分。
 もひとつは酷い話。田圃用の溜池と言うタメイケを荒し廻った。そこにいた「食用蛙・ウシガエル」は悉く捕まえ食べてしまった。
 日暮れを待って 瓦屋根のスズメの巣・小雀も随分いただいた。
 漁師町には独特の荒々しさがある。なんとか町・と・かんとか町とが徒党を組んで喧嘩する。日時を決めて浜に集まる ドスを持って。
 兎に角荒っぽい・・・が大怪我はしない。
 イジイジしない。みんな気がさっぱりしてしていた。
東京方面へ行かざるを得なくなる?・・・???