地獄編〜41  この男大学受験浪人・手相・ガンコ・変人・奇人(20)

 計算通り受験浪人。高校の父兄会で担任教師と面談した父はガンコの学力では今後も見込みなしと判断。予備校行きを否定。対する母は真反対。父にガンコの予備校行きを哀願。今回は父が折れた。
 予備校に行って先ず驚いた。魂消た。全体として学生に落ち着きが無い。ザワザワ・ソワソワしている。予備校の講師を奪い合うように捕まえてはナンジャカンジャと聞いている。皆が子供っぽく見えた。ゴチャゴチャ・ガヤガヤつまらぬ瑣末な事を大真面目で質問している。これで受験勉強してるんだと錯覚し 奇妙な安心感に浸ってるに過ぎないとガンコは判断した。
 ガンコは安易に答えを求める事はしない。まず自分の頭で納得行くまで考える。参考書を信頼して読み・考え・意識して覚えこむ(後年参考書にも随分誤りがあることに気付いたが・・・)。休み時間になるとワイワイ・ガヤガヤ喧しくて落ち着かない。思考の邪魔になった。ゆっくり休めなかった。
 考えた。浪人生一般のレベルが一通り解り この連中と一緒に学ぶと良くても同じレベル。通学時間が無駄・疲れるのみ。受講料・交通費が無駄。家には病んだ母がひとり寂しく臥している筈。決めた。四〜五週間後にやめた。蚕室で母と二人っきりで過ごす。独学に徹した。
 志望校三つの入試出題傾向を徹底チェック。受験八教科の得手不得手を分析 学習時間割表を作成。各教科ごとに目標得点を設定。平均点75点獲得で勝負と勝手に決めた。参考書・問題集は一冊ずつ。太い大きな物は使わず反復演習可能な物を選んだ。但し英語だけは別格。解釈・文法は高度な書物を選択し英単語は旺文社・「アカタン」の親分を一冊丸ごと頭に叩き込んだ。
 この予備校からの帰途 駅裏の赤提灯が多数並んだ一角に手相見が居た。一旦は通り過ぎたが妙に胸騒ぎがして逆戻り。料金を尋ねたが全く記憶にない。
 手相見のオバサンふとい声で開口一番・・・
「あんたっ!片親に縁が無いねっ!」続けざまに・・・「あんた 不動産で財をなすねっ!」。ほんとに腰が抜ける程驚いた。蚕室に戻れば重症の母がいる。これはズバリだ。だが家は勿論 一坪の土地も無いガンコ・変人が「不動産」???俄かには納得できず・・・念を押した。「間違いないっ!見とれっ!そうなるっ!」。
あまりの剣幕に恐る恐る尋ねた。「来春医学部受験したいが・・・・」言い終わるか終らないうちに・・・「心配するなっ!必ず受かるっ!博士にもなるっ!」。これにも仰天した。同時に奇妙な安堵感に包まれた。
 あたりは少し暗くなりつつあった。
 この件に関しては一切他言しなかった。自分は自分 他人は他人。マイ・ペースを一途に守り突き進んだ。