地獄編〜43  この男にマドンナ・ガンコ・変人・奇人(22)

 中学一年の二学期。朝礼時に壇上で一生徒が転入学の挨拶をした。ハッ!とした。澄んだ声と奇麗な「日本語」。一瞬新京の日本語を思い出した。知的で色白の美少女。マドンナ!!。瞬時に片思い!!。
 男女共学だったが男女間の気楽な会話はあり得なかった。
なぜか中学も高校も 第3年次に限り同じクラスになった。
 清楚で 群を抜いた容貌・美しさ。明るく笑う。ひときわ光り輝く聡明さ。ちょっとした仕種に魅力いっぱいのオーラ。
近寄りがたい気品・清潔感と威厳。隙のない育ちの良さ・・・ ・・・。
 声をかける勇気なんてまるでなく 6年間過ぎた。
 マドンナの家族や環境など知る由も無く 知りたくも無かった。
 現住所だけは卒業者名簿でわかった。
悶々とした蚕室での母との受験浪人生活。ガンコ・変人は救いが欲しかった。
一大勇気を奮い起してマドンナに便りした。ハガキにぎっしり英文で書いた。中味は記憶にない。返事が来た。飛びあがらんばかりに嬉しかった。勇気付けられた。以来主に人生論に関する文通。会って話すことは一度も無かった。母の病・生活の実態から自己を完全に切り離し 三人称で謂わばファンタジーを述べた。嘘は言わない。二人が共有可能と考えたことを書いた。
 十二月末になって初めて「現実」・・・母の死を伝えた。
 春に医学進学課程入学を記し その後も相変わらず文通のみ。会うことは無くガンコ・変人は医学部専門課程に編入
 ここで初めて同級生一人ひとりが「医学を専門に学ぶ」という一点に置いて 横一列に一斉に並んだ。
 マドンナと離れたくないガンコ・変人は頑固一徹のままだった。
 仮に離れることがあっても 女優にだけはなって欲しくないとひたすら祈った。