地獄編〜57  この男奇人呆れた。劣悪人格・暴君・内科教授(34)

 「内科診断学」という教科書は昔からある。しかし「診断学」なる本はない。ここに言う「診断」とはいかなる概念なのか?後日にまわして先に進む。
 「自分は美人である」と信じてた。ところがいつの間にか そこいらの婆さんかそれ以下になっていた。女優は総じて皆そうだ。専門家の運命なんてそんなもの。つまり役立たず。捨てられる運命にある。
 二代目新任内科教授も東大出身。専門は感染症。その中でも極めて特殊な分野・・・つまりセシルの内科教科書・全約2300ページ中 感染症が約330ページ。その中の10%弱を占めるだけの稀にしか見られぬ疾患群だけを専門とする。東大出身内科医としては主流の臨床医でも研究者でもなく 悪く言えば亜流・ハグレ者。この男が事もあろうに「一般内科」の主任教授になった。後日 皮膚科教授が「あの男を選任した教授会の大失敗だった」と述べたのを奇人は今も忘れない。
 初代教授がドイツ語で論文を書けに徹し 教室員は学位取得に悲観的だった。一方臨床面は充実し特にレントゲン写真読影は優れていた。ところが新任教授は胸部エックス線写真読影のABCも知らない。横柄・傲慢。患者・看護婦構わず直ぐ罵倒怒鳴る。その男が同じ東大の先輩教授の前ではバッタのごとくペコペコ頭を下げる。その見苦しさ・情けない!。奇人は当時 分裂気質の異常人格者と断じていた。教授回診に付き合った温厚な病棟婦長が後年 精神異常を来たしたのは知る人ぞ知る。極端な病的人格者故 残党の侍たちとは悉く対立し 教室内は険悪な空気に包まれた。例えば・・・
外来で教授初診・「教授得意の?と言う疾患」即一般病棟入院。対する侍・病棟医・胸の写真を見るなり「これは結核だっ」。しかしこんな劣等教授に教えたって無駄!。わざと喀痰の結核菌培養をし教授回診時に陽性だと突き付ける。慌てた教授が「結核病棟へ移してください」と言うのをせせら笑った。この間結核菌が病室中にばら撒かれてた!。これが何回か続いた。今度は胸の写真に影を見つけると即結核病棟へ入院。対する侍「こりゃぁ結核じゃない」。知らん顔して胸腔穿刺・採れた液体を病理組織検査へ出す。答えは肺癌。次の教授回診まで知らん顔。教授ビックリ患者は一般病棟へ。そのうち肺には結核があること。かつ癌より多いことをやっと覚えた。
 侍たちと教授間に嫌がらせと喧嘩が絶えず 医者として既に一人前の侍・有給助手たちは 教授就任一年四カ月目には全員喧嘩して辞めてしまった。この有給助手・空席を狙って奇人より三〜四年上の「流れ者」たちが入局してきた。この連中には確固とした内科臨床の基礎が出来てない。これは教授にとって物怪の幸い。恥をかく心配がなくなった。後は肩書を盾に一方的にやりたい放題 「暴君」ぶりを発揮し始めた。
事初めに外来で撮影された胸部エックス線写真を 全部教授がエンピツでチェックし始めた。ちょっと影らしきものを見つけると片っ端から結核・公費治療申請せよと命令。医局長は自分の氏名で申請するのが恥ずかしく「教授名」の印鑑を押して書類作成・提出。悉く「治療の要なし」と戻って来たのを今でも思い出す。