地獄編59  この男奇人・マドンナと結婚。火事との遭遇。(36)

 春 医師国家試験・ECFMG試験・無事終了。侍たちの気迫に負け?内科入局。四ヶ月後には侍たち全員 ヘナチョコ教授と大喧嘩の末辞めてしまった。内科教室の実戦力急低下。市中・病院の婦人科医・細菌学者らが有給助手席を占拠した。アメリカ帰りも一人。全員謂わば流れ者。唯々諾々。無気力。アノミー状態。
 八月末マドンナと結婚。家が学習塾。日曜は終日生徒でいっぱい。受験生もいて急には塾閉鎖不能。やむなくマドンナも同居。
56日後午後二時ごろ火事・全焼。出社中のマドンナ 回診中だった奇人二人仰天。マドンナの嫁入り道具・衣装など 奇人の学生時代のノート・参考書類一切が消失。風呂釜の火の不始末。謝罪一切なし。
マドンナ急遽農家の廃屋に転居決定。ヤヤコシイ人間関係 家庭教師ともオサラバ。スッキリ・サッパリ何にもナッシングの二人・再出発。マドンナ一切不服言わず。奇人密かに感謝するのみ。
実はマドンナ。台湾・台北市生まれ。台北帝国大学の隣に住んだ典型的なお嬢さん育ち。父は敗戦の年二月脳出血で他界。戦後引揚者。内地での生活困窮を体験済み。
七十五歳を過ぎて今も思う。「マドンナも奇人も なにものかに 常に護られている」。それは亡き父であり母である。ふたりの常。いつも思い出しては心で祈る。墓参・読経不要。奇人神を信ぜず。
敗戦後の生活困窮・家なき時代。就職難時代。大学受験時代。渡米すべきか否か時代。病院開業経営時代。病気入院した時・・・まさに綱渡り人生のありとあらゆる時に「・・・護られた」。
その象徴的出来事・・・
新婚56日後 火事に遭遇したその日 午前会社でマドンナ・・・
「結婚したら火災保険には早く入っておくべき・・・」。全くの偶然。同僚男性の一言に胸騒ぎ。昼休みに保険会社へ走り火災保険の契約を結んだ・・・。
護られた。救われた。